トラップ射撃の総合基礎技術
General Fundamental

総合基礎技術

ここに掲載したものは、ある著名な射撃指導者がさる外国からの依頼を受け何年も以前に、指導者やコーチ向けに英語で書いたものを日本語にし部分的に抜粋し編集したものを本コラムに転載する許可を頂いて公開するものです。

射手や選手にご覧いただいても勿論結構ですが、これは指導者、コーチ、インストラクター向けに綴った初歩的インストラクションであります。

General Fundamental ― 総合基礎技術

クレー射撃競技選手を育成するに当たり、トラップ種目の専門技術習得向上のため基礎技術として総合的に構成されるカリキュラムである。

T.基礎技術
U.トラップ技術

T. 基 礎 技 術

自然派生運動 ― 関連動作認識
  @ 標的視認  飛翔標的の継続視認によって自然発生する諸動作、感性活動の認識
    視知覚中枢に伝達される目視情報は、その後に発生する射撃競技の専門諸動作を自然発生的に喚起する第一段階、つまり動作スタートへのキーであるが、そこには様々な予知行動(意識、感覚上、習慣として)が潜む可能性が非常に高い。
設定されている一定条件の枠から逸脱する事のない標的構成、競技構成にあるクレー射撃において、予知行動は意識として行使される事が常で、例外なく自然発生する競技者の感性活動を妨げる初期的弊害であり、経験とともに習慣行動と化してしまう。
競技者育成ステップから視知覚中枢伝達による諸動作への開始キーを標的視認を通じた現実的目視情報によってのみ発動させる事は、無意識下で筋運動としての射撃を成育するための重要なスタートである。
  A 基本姿勢  人間の通常立位バランス配分と立位射撃姿勢バランス配分
    人間の通常立位姿勢の前後バランス配分は既に前方60%、後方40%の体重バランス配分である。クレー射撃競技において、7対3、或は8対2、と云うような表現で基本射撃姿勢に対する前後バランス配分を表わす事が多いが、通常立位姿勢の6対4を基準に考える時、行われるべき前方へのバランス移動率の実際と感覚誤差を認識のうえ実行の必要がある。 後方へのバランスの残存率にしても同様である。
  B ローテーションとムーブメント ― 目の役割と情報伝達
    射撃動作に伴うローテーション(身体の回転的動作)とムーブメント(発生射撃動作)は大規模な行動を伴うものではなく、標的の放出角度、速度等に応じた適正必要動作として自然発生する性質のものである。
特にローテーションにおいては、自然発生の順序、発生の身体的メカニズムを知識ではなく事実としての認識を要する。
全てのローテーションは無論、多くの身体動作が発生し、動作方向、動作量、を決めるのは、目(状況の映像)や耳(音 声、音)の視知覚中枢によって得られた初期的情報によるものである。
人間が自らの後方を振り向く様子を極めて当然の例として挙げてみよう。
人に何がしかの必要が生じて後方を振り向こうとする場合であるが、後方から第三者に呼ばれた状態を想定する。 呼び声を音声として耳がとらえ、次はその方向を目で捉えようとする。
左右いずれに振り返るにせよ、先ず眼が動くが眼の動く範囲内では後方は捕捉しきれない。眼が最大限動くと同時に 首(頭部)が反転(回転)し出すが、同様に頭部の回転可能範囲では補足が不可能である。
頭部の最大可動範囲を過ぎると ― 肩が追随し回転動作が開始され ― 上半身の回転運動(動作)に変化し ―  最終的には下半身が上半身の動作量に応じた回転運動(動作)に転じる。
この一連の動作は、腰を回すとか回転させる動作は一切伴わない自然反応動作である。
腰は上半身と下半身を合理的に連結させるジョイントで土台でもあり、腰自体に動的運動方向性や運動量調整能力 が備わっている訳ではない。
クレー射撃においては、腰は動作量、運動量等の制御に大きな役割を果たすことになる。
思考と感覚 ― 人間の自然反応力の素晴らしさ
  @ 感性作用
    射撃競技は感覚スポーツで、クレー射撃は感で撃つものと云うグローバルスタンダードとしての大前提がある。
日本語による「感や勘で撃つ」には概して良好な響きが伴わないが、思考としての意識を伴わない潜在意識発揚競技の 最たるものがクレー射撃であり、「飛翔する物体を捕捉する」と云う本能的欲求がもたらす感性としての潜在能力は強大 無比なもので、個人の有する射撃感性を充分に作用させる要は大である。
  A 習慣的条件反射
    クレー射撃競技は定型的な条件下で行われ、否通常動作を突発的に要求される事例は極めて少なく皆無と云ってよい。
いずれの種目も「標的の放出」による習慣的条件反射の基に動的競技行動が開始されるが、標的放出命令を発するのは競技者自身である。
標的の放出に対する射撃準備姿勢完了後の「待機時間」と云う静的競技行動の中に、習慣的条件反射への予備行動として、予知感覚の上昇とともに体内における動的競技行動が「標的のコール」と同時に発生していることを知らねばならない。
習慣的条件反射は「良習慣」、「悪習慣」が即座に競技行動の質に影響を及ぼすもので、トラップ、D.トラップにおいては静的競技行動の内にあるはずの「標的コール」が既に動的競技行動化しており、動的競技行動への習慣的条件反射を競技者みずからの「コール」によって発生させない「良習慣」の成育に努めるが肝要である。
  B 射撃感性発揚のための思考補助
    人間の自然反応力や感性活動による動作は大変に素晴らしいものであるが、それら自体が単独で学習する能力を有さない。
従い、左脳による思考活動を以って体記憶、筋記憶として競技行動を右脳による感性活動に記憶させてゆく必要が生じる。
その際、思考で競技行動を司るべきではなく、「こういう事をこの様に体表現してみる」と単純に考え思うに留めなければならない。
正しい筋記憶をあるいは体記憶を自らが養ってゆくのである。 一朝一夕にして競技行動が完成するものではなく、失敗、不成功、結構なのである。
思考は補助力であり、具体性を持たない感性の所作を補助判断する機能として理解を進め、思考による動的競技行動(考えて撃つ)が担える範囲、担うべき競技行動分野の認識を必要とする。
  C 確定要素と不確定要素
    現代クレー射撃競技において、「銃から弾が発射されれば命中は当然」との世界的認識は、「標的に命中させる事が射撃の中で1番簡単なこと」と云う事実を育成過程の競技者に対し競技上の確定要素として観念的に認知させる事である。
定型条件下で機械類を介在させ競技するクレー射撃では、機械条件、競技条件として命中は確定要素なのである。
一方、競技者自体は思考の中に不確定要素を多数内包しており、決して複雑でない競技構成の単純条件を自らの主観或は観念の中で複雑化し、確定要素を不確定要素からの視点、観点で模索しようとしがちである。
基礎技術認識 ― 高度な射撃技術の礎
  @ ガンアップ(挙銃)と ガンマウンティング(据銃)
    挙銃と据銃の概念にトラップ、D.トラップの2種目とスキートでは、その実際の競技行動から生じる異なりがある。
しかし現代では、ガンアップ(挙銃)とガンマウンティング(据銃)が種目によらず同一行為として考え行われる傾向を世界が示している。
トラップにおいては挙銃動作から据銃完了までの、いわゆる射撃態勢準備までに消費する時間の長さが競技者の射撃テンポ、リズムを司る意識や認識の外にある重要な競技行動として捉えられている。
  A ポイント(指し示す)とエイム(狙う)
    クレー射撃では便宜上、用語としてエイムを使用する場合があるが、そこには「狙う」あるいは「狙い」と云う意味が含まれていない。
これは前項の感性作用とも連接する事項でもあるが、高速で移動する標的に対し射撃時間帯が0.4〜0.7秒の範囲で実行される競技行動上、感覚によって目標物に対する適正発射位置関係が指し示されるもので、表層意識によって行われる「狙う」行為とは本質的な異なりを示ものである。
エイム(狙う、狙い)を用語として使用する事を阻むものではないが、競技者の育成過程において、エイム(狙)はポイント(指し示す)であることへの認識を要する。
  B バレル ムーブメント と スウィング
    旧来的な意味合いを有する銃のスウィングは、最早ムーブメントの中に組み入れられている現代競技射撃である。
バレル(銃身)のムーブメント(移動)は移動標的射撃には不可欠なものであるが、銃あるいは銃身をスウィング(振る)するという概念に支配されていない現代の射撃である。
スウィングは銃身あるいは銃自体を振るさまを言い表すものであるが、当然、それを振ろうとするのは競技者自身であり、スウィングに伴う、速度、移動(振ル)幅、移動軌跡等、現実に則さない競技者自身の主観による決定が行われやすい特徴が存在する。
ムーブメントは1の自然派生運動で述べた如く、その場の実際から得られた伝達情報を基にその全てが自然決定される性質のもので、銃身或は銃の移動に単独性を有さない複合する競技行動の中の一つである。 
  C サジェスティッド アーム
    フォーエンド(先台)を支える握り手(右利きなら左手/左利きなら右手)をサジェスティッド アーム(競技行動の初端を示唆する手)と言うが、これは非常に重要且つ射撃行動の要でもある。
視知覚中枢により発動された習慣的条件反射の中で、真っ先に反応し、競技行動に連結させるのがサジェスティッド アームであり、実質的な銃のムーブメント(移動)を起こしているのも実は「この手」なのである。
「この手」が作用している事を正当に認識する必要があるが、コマンド アーム(統率機能の手)ではなく、注意を要する。
  D 空間移動距離
    銃の移動により得られる実際の射撃方向への前方空間移動距離を認識しなければならない。
銃の移動角度によりカバーできる空間移動距離の実質に異なりが生じ、射撃ポジションから据銃状態で銃を移動した場合、競技行動としての銃の5cm〜10cmの動きが20m、30m先ではどれ程の実質距離の移動に当たるのか検証を要するものである。
運動としての射撃
  @ 射撃は運動
    射撃競技は内的筋力作用を伴う運動である。
身体を大幅に活動させたり、跳躍や走る行為を付随しないが、体外方向への筋力作用ではなく体内凝縮的な内的筋力作用が行われている。
強大な筋力や持久力を要求されないまでも、自分自身の体をコントロール(制御、安定)させえる筋力は必要である。
  A 必要筋の認識
    クレー射撃において最も必要とする筋力は背筋力であり、握力でも上腕筋でも大胸筋でもない。
背筋力の強化による射撃競技行動の制御、安定は、ムーブメント コントロールの基礎的条件である。
背筋力とは脊椎起立筋・僧帽筋・三角筋からなる背筋群の筋力を言う。
本来付け加えるべき以下の二項目については、割愛いたします。
  B 有酸素運動と補強筋力
  C 射撃運動は軽快

U. ト ラ ッ プ 技 術

静止基礎動作
  @ 基本フォームとガンマウンティング(据銃)
    誰にでも容易に実行、表現可能な射撃行動準備姿勢。
基本射撃方向(ストレート標的)に対して体面角45゜が世界基準。
据銃においては競技者本人の最も据銃し易い、肩の極端な内側、外側を除くヶ所に据銃させるを基本とし、据銃の肩に対する高低についても本人の感覚良好な位置を優先のうえ観察を必要とする。
  A アップライト と トラディショナル マウンティング
    アップライトな据銃はアメリカが創りだしたアメリカ射法に供するもので、顔を真っ直ぐに立て、銃床床尾が肩の上端から飛び出し見えるほどの高い据銃を行うものである。
アメリカ射法は銃のスタートからムーブメントが継続できる限りの長い移動距離範囲の何処かで標的と銃が合致し撃発が行えればよい、と云う考え方から生じたもので、銃の長い空間移動距離をえるために必要な「軽い」ムーブメント性質を、体と銃の圧着度が低下する高い据銃と高い顔の位置で得たものである。
トラディショナル(伝統的、保守的)な据銃は、体で銃を包み込むような据銃方法で、肩に対する据銃位置も比較的低く、必要最小限の動作で射撃競技行動を終えようとするものであり欧州射撃技術のスタンダードとなっている。
  B 基本バランス構成 ― バランスとバランス感覚の実際
    挙銃 ― 据銃完了 ― 標的コールに至るまで、基本的前後バランス(負荷/制御バランス)は50/50のニュートラルなポジションを指すが、50/50の実際はT―1―Aで述べているように前後配分60% ― 40%のナチョラル ポジションのことである。
ナチョラル ポジションは通常立位姿勢のため、感覚上、特別な姿勢やバランス配分にはなく、据銃をした場合、直立状態に錯覚しやすいので注意を要する。
前方荷重を増加させる際には、ナチョラル ポジションの前後配分比を基に実際と感覚上の増加度合いを融和してゆく事が肝要である。
  C 銃口待機位置とその理由
    銃口待機位置の基本は、標的放出口つまり放出口のマークである。
世界各国の競技者の初期動作を35mm映画フィルムで撮影したものをスローモーションで観察すると、誰しもの銃口が放出標的の飛翔方向とは無関係に、放出された標的の高さに応じてリフト(真っ直ぐに上昇)している事実が判明している。
初期動作において、放出標的に対し直接的に銃先を向けていっている訳ではなく、放出口マークあるいはその近辺から銃口は、標的の高さに応じた率で一端真っ直ぐに上昇することになる。
この現象は射撃行動(銃のムーブメント)の予動でもあり、感覚が行なう標的の見極め作業から発生する現象で、後続する射撃技術動作に大きな貢献をしている。
従い、放出口マークでの銃口待機が基本となるが、リフトが生じ得る範囲の高さまでは銃口待機位置を上げることは可能である。
動的基礎動作
  @ スウィング と ムーブメント
    T―3−Bで触れている如く、現代ではスウィングがムーブメントの中に融合されているが、専門競技技術としての分野でありムーブメントの中に融合されているスウィング技術の基礎を習得する為には、行為時間の長さを伴う大きな移動(スウィング)で標的の飛翔軌跡を正しくトレースする練習を要する。
標的のコール後、先行する標的の飛翔軌跡を正しく追随して行かねばならないが、大きく長い銃の移動(スウィング)を感覚理解が得られるまで、可能な限り低速移動を心掛けなければならない。
理解が得られ動作行使の習熟度の向上に連れ、大きく長い銃の移動は、中小、中長の兆しを見せ、小さく短い銃の移動へと自然変化が現れムーブメントに融合される。
  A サジェスティッド アーム
    T―3―Cで述べた通り非常に重要な役割を果たしており、銃移動の方向性の全てがサジェスティッド アームに委ねられていると云ってよい。
銃口待機位置の項で述べたリフトもこれによって始動され、視知覚中枢伝達により真っ先に反応し行動を起こすのがサジェスティッド アームなのである。
また、体動競技行動としてのローテーションの範囲内で銃のムーブメントの原動力となりコントロールまでも行うものである。
  B トレース と 基本射法
    放出された標的の軌跡を追い、標的にタッチと同時に撃発するスウィングスルーがトラップの基本射法で、仮に標的の前方に対し撃発を行う競技者がいたとしても、其れはスキートのインターセプティング(リード射法)ではない。
標的の放出方向に確定条件をもたないトラップ競技においては、スウィングスルー以外に射法が存在し得ない。
そのスウィングスルーを正しく習得するために行われるのがトレースである。
@のスウィングとムーブメントにも関連してくるが、標的の飛翔軌跡を忠実に辿る銃の移動が不可欠である。
  C ムーブメントの順序とローテーション − ローテーションの自然発生
    視知覚中枢より伝達された映像としての目視情報により素早い初期動作反応が起こるが、放出された標的に対して最も早い時期に反応しているのは視覚(眼)である。
眼は真っ先に動き出すと同時にサジェスティッド アームの始動を促す。
つまり、最も早く始動するのは銃先と云う事になるが、T―1―Bで記述のとうり、頭部、肩(上半身)のムーブメント順序に従い、標的の放出角度に適応したローテーションが自然発生し、上半身のムーブメント量(範囲)に応じた下半身の追随で射撃動作の終結に至るものである。
  D マズル コントロール
    T―3−Dの空間移動距離の理解認識をベースに、撃発時の銃口制御が自動的に行われる事が望ましく、撃発時の銃身への不要入力が競技者の認知や自覚の外で、意図したポイントとは異なるポイントへの撃発を発生させる要素を排除しなければならない。
  E 背筋による動作制御
    T―4―A 必要筋の認識を参照願いたい。
動的感覚錯誤により射撃動作の土台たる下半身を腰部から捻転したり、前後あるいは左右の基本体軸線外へ腰部が突き出てしまうケースも多々あるが、背筋によって上半身を― 吊る ― 支える ― 絞り込む と云う内的筋力作用が行われず、体外へ向って動作力を行使してしまう事は避けなければならない。
Copyright (C) 2005 Setagaya Clay Shooting Federation. All Rights Reserved.